「ビジネスの場で文化的な違いは大して重要ではない」と思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、文化の違いから生じる様々な問題は、日系企業で働く現地社員の職場での生産性に影響を及ぼします。優秀でやる気のある現地社員が、解消しない不満や誤解のために去っていくケースも多く、「たかが文化、されど文化」で企業にとっては大いに時間的・金銭的な損失となり得ると言えます。
では、どのようにして異文化相互理解を図ればいいのでしょうか。「氷山モデル」を用いてご説明します。氷山は約10%が水面上、約90%が水面下にあると考えられており、文化にも同じようなことが言えます。例えば、文化の目に見える「水面上」の部分には振舞いや習慣などがあり、目に見えない「水面下」の部分には価値観、前提、信念などがあります。目に見える部分は、実は「水面下」の部分が「可視化」したものに過ぎないため、例えば文化の異なる相手の振舞いなど「水面上」の事柄を理解するためには、「水面下」の価値観や前提、信念などに目を向けることが重要なカギになるということが分かります。
ここで日本人とヨーロッパ人が共に働く上でしばしばお互いが直面するチャレンジをみてみましょう。以下は、弊社が顧客企業に対して実施したアンケートの結果やセミナー参加者の声をまとめたものです。興味深いことは、双方が最も難しいと感じる点が一致していることです。ここでは最初の二つのチャレンジについて簡単に触れたいと思います。
まず、「コミュニケーション」についてですが、240年間も鎖国をした島国で、侵略されたことがない上に移民も少ない同質社会の日本では、文脈や背景から意図することを理解し、「一を聞いて十を知る」という空気を読んで察する高文脈文化が発達しました。これに対し、何百年にもわたり様々な文化、言語、宗教が混ざり合い、多くの戦争で人々が移動し多様性に富んだ地域となったヨーロッパでは、誤解を避けるためにはっきりと言葉で表現する低文脈文化が発達しました。実は世界的に見てもオランダとドイツが最も低文脈で、日本が最も高文脈であると考えられており、両極端にいるオランダ人と日本人との間のコミュニケーションが難しいのは、ある意味当然と言えます。低文脈文化のオランダ人とは「言ったことがそのままそれを意味するような」明確なコミュニケーションを心がけることが大変重要になります。また、低文脈文化では、相手を理解させるのは話し手の責任という前提でコミュニケーションを取るので、もし相手に言われたことが分からなかったら遠慮せずに何度でも聞いて大丈夫です。分からないままにする方が相手に対してかえって失礼になります。
次に「情報の共有」ですが、現地社員にとってのチャレンジでもあることを考慮し、ここでは駐在員だからできること、いわば「駐在員の付加価値」について見てみましょう。
- 日本本社の情報を現地社員と共有する:組織、戦略、哲学やビジョン、仕事の進め方(意思決定など)、 技術的なノウハウ、進捗状況、など
- 現地の情報を日本の本社と共有する:現地法人が抱える課題、現場の状況、現地で培ったノウハウや文化、労働習慣、市場に関する知識、など
現地社員にとって日本の本社は、どこに向かおうとしているのかはっきりしない、何が起こっているのかよく分からない、漠然とした「宇宙」のようであり、ありきたりではありますが、駐在員に求められるのはやはり「架け橋」になることだと思います。中でも特に必要とされるのが、本社での意思決定の際の支援と言えるかも知れません。ある現地社員のセミナー参加者が「本社から承認を得たくて3週間頑張ったけれどすべて空振りだったから、日本人上司の○○さんに本社に電話を1本入れてもらったところ、その場でOKをもらえた」と述べています。この言葉に「宇宙」を相手に四苦八苦する現地社員にとっての「駐在員の付加価値」の神髄を見た気がしました。
- JCO フランス 土屋 あすか