現状と分析
日系企業の皆様から私共がよく受ける質問の中に「現地化」の問題があります。
世界市場の見通しに不透明感が増す中でも、日本市場の成長の限界から、多くの日本企業が海外へ注力しています。
海外支店で現地スタッフを活用し、現地化を促進することは本社とのコミュニケーションに難しさを生じさせることもある反面、ローカルスタッフのモチベーション向上や現地市場への浸透に有利な面も多くあります。
現地化のメリット例
・ローカルスタッフのモチベーション向上
・権限委譲をすることによる意思決定の迅速化
・現地市場の変化への素早い対応
・現地ニーズに合った製品やサービスの構築
・日本人駐在員が多い場合の高コスト構造からの脱却
海外駐在員中のマネジメント比率
日系企業の多くは本社から派遣された日本人駐在員を通して管理されています。
一般社団法人日本在外企業協会(JOEA)が2012年に、世界各地に支店を持つその会員企業を対象に行った「海外現地法人の経営のグローバル化に関するアンケート調査」によると、日系企業の海外現地法人の日本国籍社長比率は71%でした。29%は外国籍社長で、その2年前の調査の24%からは増加していました。
しかし、同時に挙げられていた外国籍社長の起用で難しい点の中では、「本社とのコミュニケーションが難しい」72%、「自社の経営理念の共有が難しい」が34%と際立っていました。
早稲田大学政治経済学術院の白木三秀教授もその論文、国際人的資源管理の比較分析-「多国籍内部労働市場」の視点から- の中で、2004年10月時点で日本人海外派遣者の勤務先における社長(支社長・支店長も含む)の国籍は日本国籍88.7%、現地国籍9.3%と書いています。この調査は厚生労働省が所管する独立行政法人の日本労働研究機構(JILTP)による海外派遣者調査で、白木教授自身も調査に加わっています。
仮に日系企業で現地人がマネジメントに登用された場合でも、「アドバイザー」というラインに就かない日本人が存在することが多く、実質的な経営は日本人によって行なわれている事も多いようです。
海外駐在員に関わるコスト
駐在員派遣に関わるコスト負担も高いです。
日系企業は駐在員に対する給与体系を国内給と海外給の二重払いとしている場合が多く、単身赴任の場合は海外給与のほかに留守宅手当が支払われたり、家族同伴の場合には海外給与の他に家族手当などが支給され、加えて海外勤務の間でも国内定期賞与が支払わ れます。
このような仕組みによって日本人駐在員一人あたりにかかるコストは高く、企業によっては負担になっているようです。
希望者の減少
同時に近年では、子供の教育面や資産形成上不利になる、日本での技術や経営に関する情報についていけなくなるなどの理由から海外勤務希望者が減少するという深刻な問題を日系企業は抱えており、現地スタッフ登用へのニーズがさらに増しているようです。
現地化促進のためには(日本と欧米の経営管理手法の違い)
現地のノウハウをよく理解している人材による円滑な流通・マーケティングや人材管理など、現地スタッフ活用には多くのメリットがあるにもかかわらず思うように現地化が進まないのは、日本的な経営管理システムや人的資源管理システムが現地人に受け入れられないためで、そのような日本的システムを現地のやり方に適応させていく必要があるということも長く言われてきました。
文化人類学者であるEdward T. Hallの文化コンテクストの概念に基づけば、日本は高コンテクスト、欧米は低コンテクスト社会に位置付けられます。
人的資源管理(経営学)の専門家であり立命館大学准教授の中村志保氏は、この文化コンテクストの概念から、日本と欧米の海外子会社の経営管理の手法が異なり、このことが現地化に影響を及ぼしているという議論を日系海外子会社の現地化に関する研究 -本社の人的資源管理施策の視点より- という論文で紹介しています。
この議論によると、日本では個人や組織が情報処理を行う際にシステムを巨大化したり複雑化したりせず、情報処理能力を増強する方法を取るため、個人は組織の一員として(例えば手作業などで)そのプログラミングの作業を行なわなければならず、全人格的参加が必要になる一方で、欧米では個人や組織が情報処理を行う際には(機械やマニュアルなどの)システム を巨大化して情報処理能力を強化する方法を取るそうです。
日系企業は海外子会社で(多くの)駐在員を通じての直接的な経営管理を行ない、欧米系企業ではマニュアルを通じた間接的な経営管理を行う傾向にあることはこのような議論によって説明可能かもしれません。
現地化促進のためには (業務のマニュアル化?)
そこで、日系企業は欧米系企業のように職務を細分化し公式的なマニュアルを作ることによって海外駐在員数を減少させることができると提案する研究者もいます。マニュアル作成には、例えば下記のような分野の標準化が必要となります。
・生産方式/管理の標準化
・オペレーションの標準化
・製品仕様/品質の標準化
・会計処理方針の標準化
・標準化には、職務を細分化しその目標を達成することにより従業員の管理を行う目標管理制度も同時に構築することができるというメリットがあります。
ハイブリッド式マネジメント
(日本式経営スタイルで残すべき部分)
たとえ日系企業が欧米型のマニュアル方式を採用したとしても、日本的な経営管理システムやコミュニケーションスタイルには、欧米社会でも取り入れるべき優れた要素が多いという声も良く聞きます。 日本には従業員の集団主義的行動など欧米には馴染みにくいスタイルも存在するものの、下記のような優れた日本式経営やコミュニケーションスタイルを日系企業の海外子会社に残すことにより、日本と欧米の良い所両方を活かしたハイブリッド式マネジメントが可能になるのではないかと私たちは考えております。
・人的資源管理の重視
・共同体志向や階層平等主義
・ 幅広い異動と訓練
・ 内部昇進と雇用の安定化
・ 情報共有と経営参加
多国籍企業の更なるメリット活用
現地化が進まないということは、本来多国籍企業が持つ、本国だけではなく現地の経営資源まで利用することができるというメリットも活用できていないということだ、と前述の中村氏は書いています。
日系企業は東南アジアなどの安価な労働力や原材料などは積極的に利用しているものの、優秀な経営者や技術者などのホワイトカラーについては活用しきれていないということです。
このような優れた人材をその人物が採用された子会社だけでなく、本社やその他の拠点で活用するという人材戦略も可能です。
グローバルな人材活用のためには、たとえば本社での短期的な研修を指すトレイニー制度や、プロ ジェクトなどを通じ現地人が本社の人材と協働するインパトリエイト 制度、さらには世界共通の人事制度の確立など諸制度の確立が有効と思われます。
ジャパンコンサルティングオフィスは、上記のような問題を皆様の立場に立って、共に考えて行きたいと思っております。